イエスとロバの物語

ストーリーとラフ画&白黒画を公開♫
フルカラーの完全版絵本はSHOPでお求めいただけます。
画像をタッチするとSHOPページへうつります。

イエスとロバの物語

文 さとし
絵 みく



子ロバのサンには夢がありました。
いつの日かご主人様に認められ、自分の背中にご主人様を乗せて走ること。

しかし、サンの夢は叶いそうにありません。

なぜなら、サンはロバだから。

ロバの背中に乗るのは人ではなく、重い荷物だとサンのお母さんは言っていました。


とはいえ、

一生懸命に頑張っていれば、いつの日かご主人様に認めてもらえる。
サンはそう信じて、昨日も今日も、そして明日も、重い荷物を運び続けます。

ある日のこと。

サンの住む町で、大きなお祭りが開かれました。
太鼓と笛の賑やかな音色がサンの心をくすぐります。

ご主人様に連れられて、このお祭りに参加することを、サンはとてもとても楽しみにしていました。

ところが、

ご主人様はサンに声をかけること無く、
お気に入りの馬に乗り、お祭りへと出掛けてしまいました。

サンは、大声で泣きました。

お祭りの太鼓と笛の音が、サンの心にかなしく響きます。

サンの涙の元が枯れ、涙でふやけてしまった、かわいそうな自分を見つめていた時。

見知らぬ二人の男の人が、サンの住む家をたずねて来ました。

ふたりの男の人はサンを指差して、家の管理人と何やら話をしています。

「このロバを貸してください。あとで返しますから」。

家の管理人は、男の人たちにサンのたずなを渡して言いました。

「どうぞ、ご自由に。連れて行ってもかまいません」。

サンは管理人の言葉に深く傷付きました。
こんなにもあっさりと手放されるなんて。

絶え間なく押し寄せる悲しみにサンの心は耐えられそうにありません。

二人の男の人に連れられてサンは歩きます。
悲しみが、切ない怒りへと変わろうとしていた、その時。

一人の男の人がサン達の前に現れました。

真昼の太陽の暖かさのような声で、その人は言いました。

「良く来たね、サン。私はきみを待っていた」。

「君に会えて、とても嬉しいよ。なんて綺麗な瞳だろう」。

サンの首を抱きしめながら、男の人はいいました。

サンの心は、男の人の暖かな心に、またたくまに結び合わされていきました。

男の人は言いました。

「今日、都で祭りがあるのは知っているね」。

サンの心に再び影がかかりました。
男の人は、こう続けます。

「そのお祭りに、わたしを連れて行ってくれないか。君の背中にわたしを乗せてほしい」。

サンはおどろきました。

自分がロバであること。
人を乗せたことは無いこと。
あなたにふさわしいのは、立派な馬であること。

どんなに説明しても、男の人は考えを変えません。

「わたしは、君とともに行きたいのだ。君の背中に乗って」

サンは男の人の前にひざまずきました。

生まれて初めて自分の背中に人を乗せます。
不思議なことに、ほとんど重さを感じませんでした。

都に近付くにつれ、ひとり、またひとりと人々がサンの周りに集まってきました。

サンの背中でゆれる男の人をみた人々は、大声で叫び始めます。

「救いたまえ、ダビデの子よ!」
「主の名によって来られる方に幸いあれ!」
「ホサナ!ホサナ!」

都中が喜びの歌声を上げ、人々はサンの足元に衣とナツメヤシの枝を敷き始めました。

サンの鼓動は、お祭りの太鼓のように激しく脈打ちます。

なんと、サンの背中に乗った男の人は、救い主イエスキリストだったのです。

偉大な王の都エルサレムで、イエスの名前を知らない者はいません。
貧しい者に寄り添い、病人を癒し、罪人に明日への希望を与える方。

彼こそが、イスラエルを苦しみから救い出すと預言されていた方だと多くの人が思っていました。

そのイエスが自分の背中に乗っている。

サンは喜びで胸がいっぱいになりました。

地面を眺めながらうつむき歩くいつもの自分は消え去り、輝く太陽のさらに上を見上げてサンは歩きました。

自分の事をうらめしそうに見つめる馬たちを尻目に、サンは救い主イエスを乗せてエルサレムに入城しました。

「ホサナ!救いたまえ!ダビデの子よ!!」
「祝福あれ!祝福あれ!」

太鼓と笛の旋律。そして人々の歓声が虹色の光となりサンを包み込みました。

その日以来、

ロバのサンは、イエス達と行動をともにすることになりました。

穏やかで、慈しみに富み、喜びに溢れた時間がサンの乾いた心を潤していきました。

イエスとその弟子達にとっても、サンの存在はなくてはならないものとなりました。

ところが、

イエスとの出会いからわずか数日後。

イエスの人気を妬ましく思う人たちが、うその罪状をでっちあげてイエスを裁判所へと連れて行ってしまいました。

人々に神の愛と力を伝えていたイエスが、神の事を悪く言う者として裁判にかけられることになったのです。

イエスに嫉妬する者達と裁判官達は、気の合う仲間でした。

そして、イエス・キリストは十字架にかかり殺されることになりました。

ロバのサンは大声で泣き叫びました。

「うそだ!みんなうそをついている!」
「こんなの間違っている!イエスは何も悪いことなんてしてない!」

どんなに叫ぼうとも、ロバの鳴き声に耳を傾ける人はいません。

サンの存在を、初めて愛してくれた方。

ありのままの君が美しいと、言ってくれた方。

誰よりも強く、

誰よりも神に愛された方。

救い主イエス・キリストは、トゲのついたムチで全身を打たれました。

頭にはイバラの冠をかぶせられ、傷ついた背中に十字架を負いました。

息ができないほどの人ごみの中、イエス・キリストは処刑場へと引かれていきます。

サンは必死で人ごみの中を走りました。

「待って!!いかないで!!!」

大粒の涙が川のようにサンの頬をつたいます。

大群衆に押し返され、サンはイエスの近くまで行くことができません。

そこでサンは、高いところを目指して走りました。

息が切れて胸が痛くなってもかまいません。サンは全力で走りました。

サンが小高い丘の上に立ったとき、遠くに歩くイエスの姿を見ることができました。

すると突然、イエスが顔をあげてまっすぐにこちらを見つめました。

サンを見つめるイエスの瞳は、愛そのものでした。

「泣かないで、サン」。

「きみの瞳はこんなにも美しい。だから、泣かないで」。

イエスの姿が再び人垣に消えていったとき、サンはその場にくずれおちました。

その日。

十字架の上で、神の子はその命をささげました。

そして、

人々の涙と共にイエスは墓に埋葬されました。

イエスを失った痛みに耐える弟子たちの横で、サンはただ空を見つめることしかできませんでした。

「サン」

と自分を呼ぶやさしい声をもう一度聞きたい。

しかし、大きな耳をどんなに澄ましても、何も聞こえてきませんでした。

イエスが亡くなってから三日目の朝。

まだ暗いうちに、サンはイエスの弟子だった女性たちと一緒にイエスの墓に来ました。

なんと墓の石は取りのけられてあり、墓の中にイエスのからだはありません。

イエスのからだが盗まれたのだろうかと女性たちはうろたえ、泣き始めました。

すると、涙をながす女性たちの間にひとりの男の人があらわれました。

「先生」

女性のひとりが声をあげてその男の人の足にすがりつきました。

この出来事のすばらしさを理解するまで、サンにはすこし時間が必要でした。

十字架での死から三日後に、イエス・キリストはよみがえったのです。

「サン」

やさしく首を抱きしめるイエスの暖かさをサンは感じました。

この方さえいればほかに何にもいらない。

サンはそう思いました。

その後、

死に打ち勝ったイエスは、四十日間にわたりご自分が生きていることを多くの人に示されました。

それから、サンたちが見ている前で天へと昇りました。

天へ昇る前、イエスはご自分の弟子たちにこう言い残しました。

「全世界に出て行き、造られたものすべてに福音を宣べ伝えなさい」。

この言葉を、イエスの弟子たちは心に刻み込みました。

イエスが天に昇られてから十日後。

サンは弟子たちと一緒に福音を宣べ伝える旅にでました。

それは、奇跡と力強さと愛に満ちた大いなる日々のはじまりでした。

サンはイエスの弟子たちの荷物を背に負いました。

イエスと出会う前に背負っていた荷物とは違い、その重さは苦痛にはなりませんでした。

サンは、荷物を背にたくさんの川を渡りました。


たくさんの丘をこえ
いくつもの山をこえ
家から家へと
町から町へと
病をいやし
光をわかちあう

人びとは、サンたちがつたえる愛のメッセージを喜んでうけいれました。

とはいえ、

ときには、サンたちとイエスのことを嫌う人からいじわるされることもありました。

ときには、間違いをしてけがをしてしまうこともありました。

でも、

なんどでも、

なんどでも、

サンは立ち上がりました。

サンは歩き続けました。

サンはもう子ロバではなく、大人のロバになっていました。

そして、

いくつもの春が過ぎ、いくつものお祭りがおわったころ。

夕焼けに染まった美しい世界のかたすみで、

サンはゆっくりとそのまぶたを閉じました。

サンの美しい目が再び開くことはありませんでした。

サンは、その生涯をイエスのために生き抜きました。

大好きな、大好きな、イエスのために。

気がつくと、サンは金色に輝く世界にいました。

金色の花が咲き乱れる美しい庭園。

大きな宝石で彩られた優雅な城壁。

どこからか聞こえてくる美しい歌声。

この世界の美しさにサンはただただ驚くばかりでした。

なによりも驚いたのは、

自分の姿でした。

サンは、荷物を運ぶロバではなく、

白く輝く美しい白馬の姿になっていました。

「よくきたね、サン」

後ろでなつかしい声がしました。

振り向くと、そこには王冠をかぶったイエスがいました。

「わたしは君に会うのを楽しみにしていた」

サンは、優しく微笑むイエスの胸に顔をうずめました。

大きな喜びがサンを包みます。

「君の瞳はなんて美しいんだろう」

サンの流す涙をイエスはやさしくぬぐいました。

「君の背中に乗せてくれないか」

イエスを背中に乗せて、サンは風のように走りました。

黄金の街道を走り抜けると、どこまでも続く平原にたどりつきました。

そこには、おびただしい騎兵の軍団が整列していました。

「サン」

イエスが耳元でささやきました。

「わたしとともに行こう」

サンがうなずくと、

イエスは天使の軍団に大きな声で号令を発しました。

ラッパの音がなりひびきます。

サンは、稲妻のような速さで走りだしました。

王の中の王、イエス・キリストを背中にのせて。


おわり。

イエスとロバの物語。最後までよんでいただきありがとうございました。
このお話しを気に入ってくれた方はSNSなどでこのページを拡散していただけると嬉しいです。
フルカラーの完全版絵本はSHOPで販売してますので、そちらもよろしくお願いします。

イエス様ロバの物語。作者インタビューでは、この物語が誕生するまでの逸話や、物語の裏設定などを赤裸々に語る予定です。(更新はゆるやかです。ご了承ください)

シャローム

あなたに神の祝福がありますように。

powered by crayon(クレヨン)